Vol. 1
CROSSTALK REPORT

変えてはならないものを守りながら、酪農学園の「これから」を考える。

みらい対話会 VOL.1

POINT

・「変えるもの」と「変えてはならないもの」。建学の精神を起点に、これからの酪農学園を考える。

・施設や環境だけではなく、「どんな先生がいて、何を学べるのか」。酪農学園ならではの教育の魅力をどう伝えるか。

・キャンパスを公園のように開く? サードプレイスをつくる? 自由な発想から、未来の酪農学園の姿を描く。

正解を決めるのではなく、まずは話してみる

酪農学園のこれからについて、立場や部署を越えて自由に語り合う「みらい対話会」。

その第1回が開催された。

「みらい対話会」には、学園内のさまざまな部署で働く職員が集まる。今回も、立場や部署を越えた顔ぶれがそろった。

そもそも、この対話会を始める理由は何なのか。

冒頭、こんな言葉が投げかけられた。

「年に一回、大きな場をつくるだけでは、一人ひとりの声を聞いたり、共有したりすることがなかなかできない。まずは気楽に、前向きな話ができればと思っています」

用意された「正解」に向かって議論する会ではない。

酪農学園が掲げる理念について改めて考えたり、普段それぞれが感じていることを持ち寄ったり。「こんな大学になったら面白い」というアイデアを自由に話したり。

対話そのものから、次の酪農学園を考えていく。

そんな時間が始まった。

「変えてはならないものを守るために、変えなければならないものもある」

最初のテーマとなったのは、酪農学園が掲げるミッション・ビジョン・バリューについて。

髙島理事長は、これらの言葉を決めること以上に、その意味を一人ひとりが考え、対話することが大切だと話す。

「RAKUNO NEXT ACTION 2026-2028」という言葉についても、あえて参加者へ問いを投げかけた。

 

「なぜ『酪農』を漢字ではなく、アルファベットにしたと思いますか?」

「漢字よりも、文字として入ってくる感じがする」

「『酪農』と漢字で書くと、どうしてもイメージが狭くなってしまう。それを広げる意味もあるのでは」

さまざまな意見が出る。

それを聞いた髙島理事長は言った。

 

「これはこうなんですよ、と私から言ってしまうと、そこで思考が止まってしまう。正解はないんです。それぞれがどう感じるかを大切にしたい」

理念とは、上から与えられた言葉をただ覚えるためのものではない。

なぜこの言葉なのか。

自分ならどう捉えるのか。

自分の仕事とはどうつながっているのか。

 

それぞれが考えるところから、理念は少しずつ自分たちのものになっていく。

話は、酪農学園の建学の精神である「健土健民」、そして「三愛精神」にも広がっていった。

「神を愛し、人を愛し、土を愛す」。

長い歴史の中で受け継がれてきたこの精神を、今の時代にどう捉えるのか。

髙島理事長は「神を愛す」を「常に真理とは何かを追い求める」、「人を愛す」を「互いの違いを認めながら手を携える」、「土を愛す」を「大地に育まれる命への敬意と感謝を持ち続ける」と説明する。

そして、時代とともに変わっていくものと、変わらないものの話へ。

社会も、食生活も、教育を取り巻く環境も変わり続ける。大学もまた、その変化と無関係ではいられない。

一方で、時代が変わっても大切にし続けなければならないものがある。

「変わるものと、変わらないものがある。その中には、自分たちで変えるものと、変えてはならないものもある」

さらに、こんな言葉が続いた。

「変えてはならないものを守るために、変えなければならないものもあると思っています」

何を残し、何を変えるのか。

それを誰か一人が決めるのではなく、学園にいる人たちが話し続ける。

「みらい対話会」が目指していることの輪郭が、少しずつ見えてきた。

私たちは、酪農学園をどう紹介している?

ここから話題は、学園の外へと向かっていく。

「誰かに酪農学園を紹介するとしたら、何を話すだろう?」

 

入試の現場からは、こんな話が出た。

「まず『酪農のことだけをやっている大学ではないんですよ』というところから話します」

 

北海道らしい広大なキャンパス。たくさんの動物。充実した実習施設。学生寮。

特に道外から北海道への進学を考える学生や保護者にとって、寮の存在は安心材料になるという。

 

別の参加者からも、

「札幌から近いこと」

「キャンパスが広いこと」

「動物が身近にいること」

「附属高校があること」

など、さまざまな魅力が挙げられた。

 

一方で、こんな視点も出てくる。

「広いとか、動物がたくさんいるというだけだと、牧場や動物園のような印象になってしまう。そこに研究や科学的な取り組みがあることも伝えたい」

 

自然がある。動物がいる。

しかし、その環境の中で研究が行われ、学生たちが自分の手足を動かしながら学んでいる。

「自然」と「科学」が同居していることこそ、酪農学園の特徴なのではないか。

対話に加わっていた外部メンバーからも、問いが投げかけられた。

 

「北海道」「広い」「動物がいる」といった目に見える特徴だけではなく、そこで何を学べて、どんな人になれるのか。

その「ソフト」の部分を、もっと言葉にできるのではないか。

 

すると、入試の現場から印象的な言葉が出た。

「うちは、手足を動かす勉強が多いんです」

 

教室の中で知識を得るだけではなく、実際のフィールドに出て、動物や自然、生産の現場と向き合う。

その学び方が好きな学生もいれば、そうではない学生もいる。だからこそ、入学前からきちんと伝えることが重要なのだという。

さらに、保護者に対しては、学類ごとの就職先や卒業後の進路を具体的に伝えることで反応が変わるという話もあった。

「この大学で何を学ぶか」だけではない。

「ここで学んだ先に、どんな未来があるのか」まで見せる。

酪農学園の魅力を伝えるヒントが、少しずつ集まっていった。

「先生と一緒に勉強したい」と思ってもらえる大学へ

話はさらに、「施設」から「人」へと移っていく。

きっかけになったのは、他大学で行われている尖った研究やプロジェクトについての話だった。

世界大会を目指す学生チームなど、ひと目見ただけで「この研究をやってみたい」「この人たちと一緒に学んでみたい」と感じられるものがある。

では、酪農学園ではどうだろう。

 

参加者からこんな意見が出た。

「酪農学園にも、いろいろな先生がいる。先生たちをもう少し象徴的に見せて、その先生の尖った研究に憧れて、『先生と一緒に勉強したい』と思ってもらえるものを育ててほしい」

 

施設だけではなく、先生をもっと見せる。

研究テーマだけではなく、「誰と学ぶのか」まで見せる。

そして、その先には学生がいる。

 

「研究と、そこに属する学生たち、どんな学生を送り出すのか。そこにつながる部分に、もっと投資していけたらいい」

 

それを受け、別の参加者からも意見が続く。

 

「大学である以上、必ず学生や教育につながるものでないといけない。何で尖っていくかという意味では、話題性だけであってはいけないと思います」

 

ただ目新しい施設をつくるのではない。

学生がそこで何を学べるのか。先生の研究がどう進むのか。

その結果、どんな人材が社会へ出ていくのか。

 

そこまでが一本につながって初めて、「酪農学園らしい未来」になるのではないか。

そんな議論へと発展していった。

最新のロボットだけではなく、「手搾り」から学ぶ意味

「酪農学園らしい教育とは何か」。

その問いをさらに深めたのが、搾乳ロボットをめぐる会話だった。

スマート農業が進むなか、最新の搾乳ロボットを学べることは、もちろん大きな価値になる。

しかし、参加者からこんな意見が出た。

 

「ロボット搾乳を最新の技術として学べることは素晴らしい。でも、なぜ搾乳ロボットを導入する必要があったのかが分からないといけないと思うんです」

 

最新技術だけを切り取って学ぶのではなく、その技術が生まれるまでの過程を知る。

 

「極端に言えば、手搾りから始まって、次の段階があって、最後にロボットがある。その継続性を見せてあげなければいけない」

 

すると、過去に酪農の体験をしたという参加者が思い出を話す。

海外には、最新設備やインフラがまだ十分に整っていない地域もある。国際協力などでそうした場所へ行けば、昔ながらの技術を知っていることが生きることもある。

それを受けて、

「誰もがロボットを導入できるわけではない。だから、あえて一つ前、二つ前の技術を学ぶことも大切なんです」

という言葉が返ってきた。

 

古いものから新しいものへ。自然から科学へ。現場から研究へ。

一見すると対極にあるものを切り離さず、その間にあるプロセスまで学ぶ。

ここにも、酪農学園らしい教育のあり方があるのかもしれない。

「公園。20年前から言っているんです」

後半は、さらに自由に「未来の酪農学園」を考える時間へ。

「こんなものがキャンパスにあったら面白い」

そんなテーマになると、ある参加者からすぐに声が上がった。

 

「公園。これは20年前から言っているんです」

「公園って、どういうものですか?」

「大通公園や北大のようなイメージです。中通りにベンチを置いたり、広くしたりして再整備する。20年前にも提案したことがあるんです」

 

長く温められていたアイデアが、この場で再びテーブルに上がった。

目的は、単に景観をきれいにすることではない。

地域の人が大学へ足を運ぶきっかけをつくること。

 

そこから、アイデアが次々とつながっていく。

「カフェがあってもいい」

「ここでしか飲めないものがあるといい」

「うちの牛乳を使ったメニューとか」

「外部の人も入ってこられる場所にしたい」

 

そして、ある参加者が話す。

 

「家でも職場でもない、サードプレイスのようなものが学内にあったらうれしい。大学の人だけではなく、外の人も入ってこられるような」

 

大通公園のような場所があって、そこにカフェがあって、酪農学園ならではの商品がある。

さらに「北欧のような雰囲気はどうだろう」「デンマークとのつながりを生かせないか」と、発想はどんどん広がっていく。

 

その様子を見ながら、一言。

「いいな。みんな夢があっていいな」

 

会議というよりも、少しずつ未来の風景を描いているような時間だった。

キャンパスを、もっと地域に開いていくには?

「公園」というアイデアから、議論は「開かれた大学」へと進んだ。

酪農学園のキャンパスには、地域の人にとってまだ知られていない場所がたくさんある。

中央館の上階から見える景色。広大なキャンパス。動物たち。研究や実習の現場。

 

一方で、近隣に住んでいても「大学の中に入っていいのか分からない」という人もいるという。

ならば、「わざわざ大学へ来たくなる理由」をつくってはどうだろう。

公園やカフェだけでなく、動物と触れ合える場所、ドッグラン、大学ならではの食や研究を体験できる場所。

 

さらには「中央館からジップラインをつくったら?」という大胆なアイデアまで飛び出した。

もちろん、そのまま実現することだけが目的ではない。

自由な発想から、

「なぜ地域の人は大学へ来ないのだろう」

「何があれば、来てみたいと思うだろう」

「大学を開くことと、学生の学習環境をどう両立するか」

という、本質的な問いが見えてくる。

 

一般に開かれたエリアと、学生が安心して学べるエリアを分ける。

地域との接点を増やしながら、大学として守るべき環境も守る。

ここでもまた、「変えるもの」と「変えてはならないもの」という最初の話につながっていった。

誰と組むかで、大学の見え方も変わる

さらに話題は、企業や地域との連携へ。

大学には、企業と一緒に商品や技術を開発する「産学連携」という方法がある。

そこで外部メンバーから出たのが、「誰と組むのかも大切なのではないか」という視点だった。

地域とのつながりを大切にすることはもちろん、その一方で、これまで接点のなかった企業やクリエイターなどと組むことで、研究や地域資源の見え方を変えられる可能性もある。

 

「組む相手によって、ニュースとしての価値も変わる。驚くような相手と一緒にやることで、新しい見え方をつくれるかもしれない」

 

すると、

「組めばいいということではなく、誰と組むかをきちんと見極めることが大事」

という意見も。

 

知名度だけではなく、酪農学園の理念や目指す方向に共感してくれる相手かどうか。

外へ開くことと、自分たちらしさを守ること。

ここでも、両方を考える必要がありそうだ。

「こんな人になれる」と、学生自身が語れる未来へ

公園、カフェ、先生、研究、最新設備、手搾り、産学連携。

一見するとバラバラに見える話題が、自由な対話の中で次々とつながっていった。

最後に出てきたのは、「学生自身が未来を語れる大学でありたい」という話だった。

大学が一方的に「酪農学園にはこんな魅力があります」と伝えるだけではない。

 

ここで学ぶ学生自身が、

「こんな研究をしている」

「こんな先生に出会った」

「こんな経験ができた」

「ここで学んだから、こんな人になりたい」

と、自分の言葉で話せる。

 

そんな姿こそ、酪農学園という大学の魅力を最もよく伝えてくれるのかもしれない。

今回の対話会では、何か一つの結論が出たわけではない。

むしろ、結論を急がなかった。

 

「この自由に発散している状態そのものに、意味がある」

一人のアイデアに、別の誰かが言葉を重ねる。

 

「それなら、こんなこともできるかもしれない」

「でも、学生の学びにつながっていることが大切だよね」

「だったら、こういう方法はどうだろう」

 

そんなやり取りを繰り返しながら、自分たちは何者なのか、酪農学園らしさとは何なのかを考えていく。

そのとき、立ち返る場所になるのが、長く受け継がれてきた建学の精神なのだろう。

 

変えてはならないものを守るために、変える。

 

その「変えるもの」を誰か一人が決めるのではなく、みんなで話しながら考えていく。

第1回のみらい対話会は、そのための最初の一歩となった。

Credit

文
對馬 杏衣
撮影
合田 りく